東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)85号 判決
事実及び理由
一 請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 取消事由1について
原告は、審決には理由を付さずに本件実用新案の要旨をその記載以外に認定した違法があると主張する。
成立に争いのない甲第四号証ないし第六号証によれば、本件実用新案の出願当時の伸縮式空中線の技術分野においては、一般に、大径側の管と小径側の管とを伸縮可能に嵌合させた空中線において、これら二つの管の間に弾性係合部を設けて伸縮操作を容易に行うこと自体は周知の事項であつたことが認められるので、本件実用新案は、この技術水準のもとに、この種弾性係合部を、具体的に、どのように構成し、どのように取付けるかに係るものと考えられる。
しかるに、本件実用新案の登録請求の範囲の記載では、右の構成について単に「二枚の異径の半円片5によつて外側に膨立させて弾性係合部6を形成した」としているにすぎず、半円片をどのようにして取付けるかについては何ら規定していないのであるが、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件実用新案の説明の項には、「この考案は、大径側管1の上端に狭窄2を形成し、小径側管3の下端部の両側に切目4を横に設け、その中間に異径の半円片5の下端部を折り曲げて切目4に嵌入保持して弾性係合部6を形成した……空中線」、「係合部6は……下端部を折り曲げて切目4に嵌入させて保持するようにしたものである……」との記載があることが認められるから、前記認定の技術水準と本件実用新案の説明書及び図面を掲載したものである甲第一号証中の右各記載及びその図面を総合してみれば、前記登録請求の範囲の記載部分は、「二枚の異径の半円片5の下端部を折り曲げて切目4に嵌入保持させ外側に膨立した弾性係合部6を形成した」ことを意味するものと十分理解することができるから、これを、当該技術分野の技術水準に立脚し、本件実用新案の説明書及び図面全般の記載を参酌して、単に誤記したにすぎないとしている審決が理由を示していないというのは当らない。
本件実用新案の登録請求の範囲の右記載部分を右のとおりに解釈すべきものである以上、本件実用新案の要旨は、「図面第一に示すように、大径側の管1の上端に狭窄2を形成し、小径側の管3の下端部の両側に切目4を横に設け、これら両管1、3の中間に二枚の異径の半円片5の下端部を折り曲げて切目4に嵌入保持させ外側に膨立した弾性係合部6を形成した空中線の構造」であると認められる。
2 取消事由2について
原告は、本件実用新案のように、半円片の下端部を折り曲げて小径側の管の下端部に設けた切目に嵌入保持させるようなことは、取付けの際の常套手段にすぎず、また、弾性係合部に係る形状そのものでは、本件実用新案と甲第五号証及び甲第六号証のものとの間に差異がない、と主張する。
しかしながら、本件実用新案は、前記認定のとおり、特に二枚の異径の半円片を用い、その下端部を折り曲げて小径側管の下端部の両側に横に設けた切目に嵌入保持させ弾性係合部を形成することを要件とするものであつて、弾性係合部をこのように構成することまでが常套手段であると認めるに足りる証拠はないし、また、このことが原告の指摘する甲第四号証ないし第六号証に示唆されていると認めることもできない。
なお、成立に争いのない甲第六号証には、登録請求の範囲に「パイプ1の下辺に、……舌片5を設けた発条板4を捲込み、」と記載されていることが認められるが、本件実用新案のように、異径の半円片の下端部を折り曲げて、小径側の管の下端部の両側に横に設けた切目に嵌入保持される点については示唆もされていない。
3 取消事由3について
原告は、空中線A(甲第三号証の空中線)の「円弧片」と空中線B(本件実用新案の空中線)の「半円片」とは、明確に区別することのできないものであり、両者はいずれも長さ方向と円周方向の屈曲を利用している点で共通している、と主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第三号証によれば、空中線Aにおいて用いる「円弧片」(別紙図面第二)は、その円周方向の幅が著しく小さいもので「半円片」といえるものではなく、弾性係合部を形成するためには、主として長さ方向の屈曲を利用しているものであることが認められる。
この点について、原告は、空中線Aの「円弧片」も円周方向に屈曲させていると主張しており、前掲甲第三号証によれば、確かに原告の主張のように、円弧片が大径側の管の内周面に沿つて円周方向にも屈曲していることが認められるが、その幅は著しく小さいから、この「円弧片」が弾性係合部として機能するのは、主としてその長さ方向における屈曲を利用するものと認めるのが相当である。
これに対し、空中線Bにおいて用いる「半円片」は、「異径の半円片」であり、この文言と本件実用新案の登録請求の範囲の項における「……外側に膨立」させるとの記載並びに実用新案の説明の項の記載(前掲甲第一号証)によれば、右の「半円片」は、その内径が小径側管の外径よりも小さく、その外径が大径側管の内径よりも小さい異径であつて、ほぼ半円周に近い片をいうものと解されるから、これを小径側の管と大径側の管との中間に装着した場合、右のような異径であることによつて半円片の円周面が両管の中間において外側に膨立することになり(その場合、半円片はその円周面の中央部が外側に膨れる(すなわち屈曲する)のであつて、長さ方向には屈曲しない。)、この膨立(屈曲)を利用して弾性係合部として機能するものと考えられる。
なお、第3図(別紙図面(〔編註〕省略)第一)には、円周の四分の一程度のものが半円片5として示されているが、その登録請求の範囲及び説明の項に記載されている「半円片」の文言に徴すれば、これは、第3図に記載された各部分の厚さなどからも推知しうるように、単に半円片の位置を示すものであり、寸法としては作図上正しい縮尺によりえなかつたものと認めるのが相当である。
以上のように、空中線Aの「円弧片」は主として長さ方向の屈曲を利用して弾性係合部を形成しているのに対し、空中線Bの「半円片」は円周方向の屈曲を利用して強性係合部を形成しているものであつて、両者は明確にその構成を異にするものといわなければならない。
次に、原告は、作用効果の点において、空中線Aの「円弧片」と空中線Bの「半円片」とでは、いずれも伸縮操作を自在にすることにおいて共通しており、中心線保持の効果においても微差にすぎないと主張しているけれども、空中線Bにおいては、「半円片」がほぼ円周の半分に近い片であることから、ただ二枚の片によつて小径側管の円周を包囲して対称的な弾性係合部を形成することができるのであり、したがつて、一枚の「円弧片」を用いた空中線Aに較べて、少なくとも、伸縮操作時に小径側管の中心線と大径側管の中心線がずれないようにして伸縮操作をより十分円滑にすることができるものと考えられるから、原告の右主張は当らない。
三 そうすれば、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。